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はじめに
日本の福祉社会は、様変わりした。
かつては、福祉は行政がするものであって市民は権利を主張するだけでよかった。社会保険料や税金を支払い、公務員もしくはこれに準じる者に一方的サービスをゆだねるだけでよかった。
ところが、金を出すだけではなくサービス提供に関与せざるを得なくなった。これは、当初の介護保険制度においては、事業者としての参加でよかったのだが、2015年の改正により軽度者に関しては、一般市民がボランティア参加せざるを得なくなった。言い換えれば、市民は金だけではなく、「知恵」も「力」もという状態へ変化したのである。この理由は、少子高齢化と財政難にあり、少なくとも今後20年間は続くと想定される。
もっと、ありていに言えば自身の介護はできるだけ自身(自助)で、かつ、ボランティアによって、「共助」でおこなうように。行政は、重度者しか面倒を見ない、見られないという方向に向かっている。
こうなってくると、高齢者、ひとり親、障がい者、低額所得者、外国人などは、社会的制度から見放される危険にさらされる。
我々は、介護保険を実施するNPOの結集団体である。
昨年から住宅確保要配慮者に「住宅」の斡旋を行っている。
これまでも相談や家事援助、移送サービス、共同リビング(コミュニティカフェ)の運営等の活動などは得意の分野であった。
この活動を「住まい」につなげた。
ところが不動産業者は、こういった分野は苦手である。
そこで我々NPO団体は、地域に責任を持たなければいけない。NPOの居住支援法人は、この役割に適合していると思う。
今回は、報告書の作成をまちづくりの専門家(株式会社おかのて)に依頼し、活動を分析した結果をまとめ、報告とする。
2020年2月
認定NPO法人市民福祉全国協議会
代表理事 田中 尚輝
目 次
第1章 調査の目的と視点
1 調査の目的
2 分析の視点
第2章 住宅確保要支援者の課題とニーズ
1 既存研究の内容(全国の状況)
2 タイプ別の課題と必要な支援
第3章 大田区および「居住支援法人」市民協の支援概要
1 大田区における居住支援事業の実施内容
2 市民協の居住支援事業の実施内容
3 相談業務で活用可能な社会的資源
第4章 相談支援記録の分析
1 相談記録
2 相談記録の分析(統計的分析)
3 タイプ別の課題と事例紹介
第5章 まとめ
1 調査結果のまとめ
2 今後の課題
第1章 調査の目的と視点
1 調査の目的
住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への入居を円滑に進めるためには、全国で活動している居住支援法人が効果的に活動を行う事が不可欠である。平成29年の住宅セーフティネット法の改定を受けて設立された居住支援法人の多くは、民間賃貸住宅への入居支援の経験が浅く、これから活動ノウハウを蓄積していく段階にあると考えられる。
そこで本調査報告書は、現在居住支援法人が行っている相談事業をより効果的に行っていくために、住宅確保要配慮者の状況に応じた支援の在り方を検討する事を目的としている。市民協が大田区で行っている相談事業の記録を分析する事で、住宅確保要配慮者への効果的な支援と今後の課題を明確化する。
なお、本調査は、相談記録の分析作業が、市民協より外部調査員である筆者 ㈱おかのて代表 木村直紀(※参照)に委託するかたちで実施されている。調査の目的を達成するために、市民協が行う相談業務について、できる限り客観的にその効果的と課題を明示する事が必要と判断されたことがその理由である。
【※筆者について】
筆者である木村直紀(㈱おかのて)は、平成18年に国土交通省が、住宅セーフティネット構築の一環として「あんしん賃貸支援事業」 を創設した際に、開催された居住支援研究会のメンバーであり、居住支援に関わる地方公共団体及びNPO等の居住支援団体による活動の全国的概況を踏まえ、住宅確保要配慮者への支援の在り方について研究を行ってきた。以上の研究成果の一部は、本調査の2章の本文および参考文献でまとめている。
2 分析の視点
本調査では、2019年に市民協が大田区で行った相談事業の記録を分析する事で、住宅確保要配慮者のタイプ別に効果的な支援と今後の課題を明確化する。
具体的には、まず第2章で、既往研究を基に一般的に示されている住宅確保要配慮者のタイプ別の課題と必要な支援について整理し、大田区の居住支援の特徴や課題を分析する基礎的な資料として提示した。
第3章では、調査対象となる大田区の居住支援事業の概要についてまとめた。
続く第4章では、市民協が大田区で行った2019年の全相談記録の結果を整理し、その傾向を統計的に示した。また、それらの傾向と相談担当者へのヒアリング結果をもとに、住宅確保要配慮者のタイプ別に効果的な支援の在り方を整理して示した。
最後に第5章で、本調査で把握された事項をまとめ、今後の課題を整理している。
第2章 住宅確保要支援者の課題とニーズ
既往研究の内容(全国の状況)
本章では、まず大田区の居住支援事業の特徴を明確化するために、既往研究を参照しつつ、一般的に示されている支援対象者のタイプ別の課題と必要な支援について整理する。ここで整理した内容は、4章の大田区における相談支援記録の分析結果と照らし合わせる事で、終章で提示する、調査結果のまとめや今後の課題を示すための根拠とする。
国土交通省では平成18年に、住宅セーフティネット構築の一環として「あんしん賃貸支援事業」 を創設し、高齢者、障がい者、外国人、子育て世帯等の民間賃貸住宅における入居の円滑化を図っている。その際、平成18年度より居住支援研究会を開催し、居住支援に関わる地方公共団体及びNPO等の居住支援団体による活動の全国的概況、居住支援団体による居住支援活動の分析、 住宅困窮者に対する不動産事業者の仲介の実態等を調査・検討し、一定の検討の成果をあげている(※参考文献参照)。
以降で、「あんしん賃貸支援事業 居住支援体制推進のための調査報告書」(平成23年3月 一般社団法人 住まい・まちづくり担い手支援機構)を参照・抜粋しつつ、住宅確保要配慮者の各属性別の課題、支援内容についてまとめる。
【※参考文献】
民間賃貸居住支援に関する全国調査, 平成19年3月, 財団法人 ハウジングアンドコミュニティ財団
居住支援体制に関する調査, 平成20年3月, 財団法人 ハウジングアンドコミュニティ財団
あんしん賃貸支援事業 居住支援体制推進のための調査報告書, 平成23年3月, 一般社団法人 住まい・まちづくり担い手支援機構
以降、全文は 本報告書の PDF ファイル版 にてご確認ください。